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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)10609号 判決 1991年3月26日

甲事件原告(反訴被告)

平和生命保険株式会社

ほか一〇名

乙事件原告(反訴被告)

住友海上火災保険株式会社

ほか二名

丙事件原告(反訴被告)

上田勉

ほか一名

甲・乙・丙事件被告(反訴原告)

桑江章

甲事件被告(反訴原告)

桑江千恵美

主文

一  別紙一交通事故目録記載の交通事故による受傷に基づく甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章の入院につき、別紙二保険契約目録(一)の(1)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)平和生命保険株式会社の、同目録(2)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)共栄生命保険株式会社の、同目録(3)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)住友生命保険相互会社の、同目録(4)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)第一生命保険相互会社の、同目録(5)(ア)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)東京生命保険相互会社の、同目録(6)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)千代田生命保険相互会社の、同目録(7)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)朝日生命保険相互会社の、同目録(8)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)第百生命保険相互会社の、同目録(9)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)明治生命保険相互会社の、同目録(10)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)安田生命保険相互会社の甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章に対する各入院給付金支払債務及び同目録(11)記載の保険契約に基づく甲事件原告大同生命保険相互会社の甲事件被告(反訴原告)桑江千恵美に対する入院給付金支払債務がいずれも存在しないこと並びに同目録(5)(イ)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)東京生命保険相互会社の甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章に対する入院給付金支払債務が一二万三〇〇〇円を超えて存在しないことを確認する。

二  別紙一交通事故目録記載の交通事故による受傷に基づく甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章の入院につき、乙事件原告(反訴被告)住友海上火災保険株式会社の甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章に対する別紙三保険契約目録(二)の(1)記載の保険契約に基づく入院保険金支払債務及び同目録(2)記載の保険契約に基づく所得補償保険金支払債務、乙事件原告(反訴被告)エーアイユーインシユアランスカンパニーの甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章に対する同目録(5)記載の保険契約に基づく入院保険金支払債務、乙事件原告(反訴被告)アメリカンインターナシヨナルアシユアランスカンパニーリミテツドの甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章に対する同目録(6)記載の保険契約に基づく入院保険金支払債務がいずれも存在しないことを確認する。

三  丙事件原告(反訴被告)らの甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章に対する別紙一交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が、一九一万〇一一〇円を超えて存在しないことを確認する。

四  甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章は、乙事件原告(反訴被告)エーアイユーインシユアランスカンパニーに対し、三〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年六月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

五  甲事件原告(反訴被告)東京生命保険相互会社は、甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章に対し、一二万三〇〇〇円を支払え。

六  丙事件原告(反訴被告)らは、各自、甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章に対し、一九一万〇一一〇円を支払え。

七  甲事件原告(反訴被告)東京生命保険相互会社及び丙事件原告(反訴被告)らのその余の請求を棄却する。

八  甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章のその余の請求及び甲事件被告(反訴原告)桑江千恵美の請求を棄却する。

九  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを一五〇分し、その一四を丙事件原告(反訴被告)らの、その一を甲事件原告(反訴被告)東京生命保険相互会社の負担とし、その余を甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章及び甲事件被告(反訴原告)桑江千恵美の負担とする。

一〇  この判決は、第四ないし第六項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴(甲・乙・丙事件)請求の趣旨

1  別紙一交通事故目録記載の交通事故(以下、「本件事故」という。)による受傷に基づく甲・乙・丙事件被告(反訴原告)桑江章(以下、単に「被告章」ともいう。)の入院についての、別紙二保険契約目録(一)(1)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)平和生命保険株式会社(以下、単に「原告平和生命」ともいう。)の、同目録(2)記載の保険契約に基づく甲事件原告協栄生命保険株式会社(以下、単に「原告協和生命」ともいう。)の、同目録(3)記載の保険契約に基づく甲事件原告住友生命保険相互会社(以下、単に「原告住友生命」ともいう。)の、同目録(4)記載の保険契約に基づく甲事件原告第一生命保険相互会社(以下、単に「原告第一生命」ともいう。)の、同目録(5)(ア)、(イ)記載の各保険契約に基づく甲事件原告東京生命保険相互会社(以下、単に「原告東京生命」ともいう。)の、同目録(6)記載の保険契約に基づく甲事件原告千代田生命保険相互会社(以下、単に「原告千代田生命」ともいう。)の、同目録(7)記載の保険契約に基づく甲事件原告朝日生命保険相互会社(以下、単に「原告朝日生命」ともいう。)の、同目録(8)記載の保険契約に基づく甲事件原告第百生命保険相互会社(以下、単に「原告第百生命」ともいう。)の、同目録(9)記載の保険契約に基づく甲事件原告明治生命保険相互会社(以下、単に「原告明治生命」ともいう。)の、同目録(10)記載の保険契約に基づく甲事件原告安田生命保険相互会社(以下、単に「原告安田生命」ともいう。)の被告章に対する各入院給付金支払債務及び同目録(11)記載の保険契約に基づく甲事件原告(反訴被告)大同生命保険相互会社(以下、単に「原告大同生命」ともいう。)の甲事件被告(反訴原告)桑江千恵美(以下、単に「被告千恵美」ともいう。)に対する入院給付金支払責務がいずれも存在しないことを確認する。

2  本件事故による受傷に基づく被告章の入院についての、別紙三保険契約目録(二)(1)記載の保険契約に基づく乙事件原告(反訴被告)住友海上火災保険株式会社(以下、単に「原告住友海上」ともいう。)の被告章に対する入院保険金支払債務及び同目録(2)記載の保険契約に基づく所得補償保険金支払債務、同目録(5)記載の保険契約に基づく乙事件原告(反訴被告)エーアイユーインシユアランスカンパニー(以下、単に「原告AIU」ともいう。)の被告章に対する入院保険金支払債務並びに同目録(6)記載の保険契約に基づく乙事件原告(反訴被告)アメリカインターナシヨナルアシユアランスカンパニーリミテツド(以下、単に「原告AIA」ともいう。)の被告章に対する入院保険金支払債務がいずれも存在しないことを確認する。

3  被告章は、原告AIUに対し、三〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年六月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  丙事件原告(反訴被告)上田勉(以下、単に「原告上田」という。)及び同阪神商事株式会社(以下、単に「原告阪神商事」という。)の被告章に対する本件事故に基づく各損害賠償債務がいずれも存在しないことを確認する。

5  訴訟費用は被告章及び被告千恵美の負担とする。

6  3につき仮執行宣言

二  本訴(甲・乙・丙事件)請求の趣旨に対する本訴被告らの答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  被告章に対し、原告平和生命は一五六万円を、原告協栄生命は一二〇万円を、原告住友生命は一二〇万円を、原告第一生命は一二〇万円を、原告東京生命は七八万円を、原告千代田生命は六〇万円を、原告朝日生命は一二〇万円を、原告第百生命は一二〇万円を、原告明治生命は一二〇万円を、原告安田生命は一二〇万円を、原告住友海上は四一八万五七五〇円を、原告AIUは一二九万円を、原告AIAは一四三万円をそれぞれ支払え。

2  原告大同生命は、被告千恵美に対し、一二〇万円を支払え。

3  原告上田及び原告阪神商事は、各自、被告章に対し、四四二万三五三〇円を支払え。

4  仮執行宣言

四  反訴請求の趣旨に対する反訴被告らの答弁

1  被告章、同千恵美の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は被告章、同千恵美の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴(甲・乙・丙事件)請求原因

1  事故の発生

別紙一交通事故目録記載のとおり交通事故(本件事故)が発生した。

2  被告章の入院

被告章は、本件事故により、頸部・腰部捻挫の傷害を受けたと主張し、昭和六〇年二月八日から同年六月三〇日まで医療法人寿楽会大野病院(以下、「大野病院」という。)に入院した。

3  責任原因の存在

(一) 甲事件原告らはいずれも生命保険業を営む会社であるところ、被告車との間で、甲事件原告らを保険者、被告章を被保険者として、別紙二保険契約目録(一)(以下、「契約目録(一)」という。)記載の入院給付特約付の生命保険契約をそれぞれ締結しているので、被告章の前記入院につき、入院給付金を支払うべき法律関係にある。

(二) 乙事件原告らはいずれも損害保険業を営む会社であるところ、被告章との間で、乙事件原告らを保険者、被告章を被保険者として、別紙三保険契約目録(二)(以下、「契約目録(二)」という。)記載の保険契約((3)、(4)を除く)を締結しているので、被告章の前記入院につき、入院保険金を支払うべき法律関係にある。

(三) 原告阪神商事は、本件事故当時、上田車を事故のために運行の用に供していた者であり、また、原告上田の過失により本件事故が発生したのであるから、原告阪神商事は自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という。)三条、原告上田は民法七〇九条に基づき、それぞれ本件事故により被告章が被つた損害を賠償すべき法律関係にある。

4  保険支払債務、損害賠償債務の不存在

しかし、以下に述べる理由により、甲・乙事件原告らは、被告章の前記入院につき、入院給付金ないし入院(所得補償)保険金を支払う義務はなく、丙事件原告らも、本件事故につき、損害賠償責任はない。

(一) 本件事故による被告章の受傷の不存在(本訴原告ら共通)

本件事故は、被告章の運転する桑江車が、急に自車の進路内に進入しようとしてきたタクシーとの衝突を避けるために急制動した際、後続車両である上田車に追突されるという態様で発生したものであるが、桑江車はメルセデスベンツで車体重量が一八三〇キログラムあるのに対し上田車の車体重量は六五〇キログラムしかなく、衝突による両車の損傷も軽微であるから、本件事故によつて被告章が受けた衝撃はきわめて軽度であつたと推認されるうえに、衝突時の被告章はブレーキを踏むために下肢を突つ張りハンドルを握つて全身に力を入れている状態であつたはずであるから、全く力を入れていないときに比べて頸部や腰部の捻挫は起こりにくいものである。そして、これらの事情に、被告章が強く訴える下肢のしびれは、訴えの部位が一定せず、レントゲン検査上認められる第四・五腰椎の狭小化もごく軽度で、かつ、生理的なものである可能性もあつて外傷性のものであると断定し得ないものであるうえに、下肢のしびれの範囲も右部位の知覚神経根の支配領域とも対応しておらず、下肢の筋力検査の結果は低下を示しているのに、客観性の高い下肢の腱反射には異常が認められないこと、さらに、大野病院の森井医師も、被告章には前述の腰椎の狭小化以外には他覚的所見や検査結果上の異常は認められていないにもかかわらず、その症状の訴えが頸部・腰部痛に加えて不眠・頭痛・嘔気等多彩なうえに、訴え自体も強く、投薬の効果も薄いのに疑問を持つており、同病院の看護婦も、被告章の入院態度について、訴えの割には行動が伴つておらず、安静は殆どとれていないと指摘していること等の事情を併せ考慮すると、被告章が主張する頸部・腰部捻挫は詐病と考えられるのであり、仮りに被告章に主張のような症状が実際に存在するとしても、それは被告章が長年にわたつて重量物を運ぶ精肉業や長時間の立ち仕事であるスナツクの経営に従事して、腰に過度の負担をかけたことによる職業病であるというべきである。

(二) 被告章の入院の不必要性(甲・乙事件原告ら)

仮りに被告章が本件事故により頸部・腰部捻挫の傷害を受けたとしても、(一)で述べた情況から見て軽微なもので、前記のような長期にわたる入院の必要性は存しない。

(三) 公序良俗違反による保険契約の無効(甲・乙事件原告ら)

契約目録(一)((5)(イ)を除く。)及び契約目録(二)記載の各保険契約は、以下の諸事情により、いずれも保険事故を故意に招致し、もしくは保険事故を仮装し、または偶発的な事故に乗じて被害を実際より大きく仮装することによつて不法に保険金(入院に伴う)を取得しようとする目的で締結されたものと推定されるところ、保険契約は、本来比較的少額の保険料の支払によつて多額の保険金を受領できるという射倖性を有してはいるが、右保険金の支払義務は保険事故の発生によつて初めて具体化し、保険事故はその発生、不発生または発生の時期が偶然に支配されるという前提があつて初めて成り立つているのであり、右のような不法な利得を得る目的で保険契約を締結する行為は、保険契約のこの性質ないし構造を悪用するものであつて、保険制度の基礎を破壊するものであるから、右目的で締結された保険契約は公序良俗に反するものとして民法九〇条により無効であるというべきであり(保険契約者が右のような目的を持つとしても保険契約締結の動機に不法性があるのに過ぎないと考える余地がないでもないが、この場合は保険契約自体が不法な利得を得るための不可欠の手段となつているから右契約自体を無効とすべきであり、右契約の効力を認めないことが相手方当事者の利益にもなる。)、従つて、前記各保険契約はいずれも無効である。

(1) 前記各保険契約の締結は昭和五九年七月一〇日から同年九月一日までのわずかな期間に集中しており、特に、保険契約の成立のために保険契約者(被保険者)がなすべき最も重要な行為である告知は、右一五件の保険契約全部について昭和五九年七月一〇日から同年八月二日までのわずか二四日間に行なわれており、極めて異常というべきである。

なお、被告らは、かかる集中的な保険加入の理由として、当時少額貯蓄非課税制度(いわゆるマル優制度)の廃止の噂があつたところ、折から二〇〇〇万円程度の定期預金が満期になつたので、新たな利殖方法として保険に投資した旨主張しているが、被告章が加入した生命保険はいずれも貯蓄性のない掛け捨て型か貯蓄性の乏しい保障重視型のものであつて、右主張とは全く矛盾している。

(2) 前記各保険契約は、一、二の例外を除いてすべて昭和五九年七月初旬から中旬にかけての被告ら(多くは被告千恵美)からの保険に加入したいから説明に来てほしいという趣旨の電話が端緒になつて締結されている。

(3) 被告章は、契約目録(二)の(1)、(5)、(6)記載の保険契約締結の際、保険代理店から他社との保険契約の有無を問われたにもかかわらず、「ない」と明確に答えており、右は前述の保険加入状況及び同目録(1)記載の保険契約締結前に契約目録(一)の(5)(イ)の契約を含む三件の生命保険契約を既に締結していたことから見て、意識的に虚偽の事実を告知したものというべきである。

(4) 契約目録(一)記載((5)(イ)を除く。)の各保険契約の入院給付金特約に基づく入院給付金の合計額は、疾病入院の場合が一日あたり八万八〇〇〇円、災害入院の場合が一日あたり一〇万三〇〇〇円に及び、さらに、契約目録(二)の(1)、(5)及び(6)の保険契約に基づく入院保険金の合計額は一日あたり五万二〇〇〇円にも及んでいるうえ、同目録(2)記載の保険契約に基づく所得補償保険金が月額三〇万円となつている。そして、右各保険契約のために被告章が支払う保険料の合計額は月額三〇万二九四八円に達しており、以前から締結していた生命保険契約の保険料を合わせれば、一か月あたりの負担額は、三六万円を超えているのである。

なお、被告らは、当時、精肉販売業やスナツクの経営で多額の収入を得ており、自営業であるため保障が必要であつたと主張するが、精肉販売業の内容自体もはつきりしないうえ、被告らの収入を証明する資料は全くなく、万一の入院という事態に備えて毎月かくも多額の保険料を負担して、通常必要と考えられる入院治療費をはるかに超える額の保障を準備する経済的必要性が被告らにあつたとは考えられない。そして、仮りに被告らにその主張のような多額の収入があり、所得補償の必要があつたのであれば、それだけの所得補償保険に加入すれば足りるはずであつたのに、契約目録(二)の(2)記載の保険契約(保険金月額三〇万円)以外には所得補償保険契約を締結しておらず、このことは被告らにそれだけの所得がなかつたことを示しているものというべきである。

(5) さらに、前述のとおり、被告章の主張する頸部・腰部捻挫は詐病であり、被告章は必要性のない入院を一四三日間にわたつて継続していたものである。

(四) 詐欺による保険契約の無効(甲事件原告ら)

契約目録(一)記載の各保険契約((5)(イ)を除く。)に適用のある普通保険約款には、保険契約者または被保険者の詐欺によつて生命保険契約が締結されたときは生命保険契約自体が無効になる旨の条項(同目録(1)においては第一〇条、同(2)においては第二〇条、同(3)においては第一四条、同(4)においては第一六条、同(5)(ア)においては第一四条、同(6)においては第二〇条、同(7)においては第一四条、同(8)においては第二二条、同(9)においては第二三条、同(10)においては第一六条、同(11)においては第一三条)及び主契約が失効したときは特約も同時に失効する旨の条項が存在するところ、被告章は、右各保険契約締結当時、(三)で述べたような不法な保険金取得目的を有しながら、かかる意図あることを秘し、甲事件原告らにおいてこれを知つておれば到底契約締結に応じないと知りつつ、保険制度本来の目的である偶然の保険事故発生に備えるもののごとく装つて保険契約締結の申込をなし、保険者にそのように誤信させその誤信に基づいて保険契約締結を承諾させたものであるから、前記各約款にいう詐欺による契約締結に当たり、右各保険契約はいずれも無効である。

(五) 通知義務違反ないし告知義務違反による保険契約の解除(乙事件原告ら)

(1) 解除事由

ア 原告住友海上

契約目録(二)の(1)及び(2)記載の各保険契約に適用のある普通保険約款には、保険契約者が保険契約締結ののち、重ねて同種の保険契約(以下、「重複保険契約」という。)を締結するときは、あらかじめ書面をもつてその旨を原告住友海上に申し出て保険証券に承認の裏書を請求しなければならず、原告住友海上は右重複保険契約締結の事実があることを知つたときは、契約を解除することができ、その場合には(1)においては右重複保険契約締結の事実が発生したとき以降に生じた事故による傷害に対して、(2)においては右重複保険契約締結の事実が発生したときから原告住友海上が右を承認するまでの間に生じた傷害及び疾病による就業不能に対してそれぞれ保険金を支払わない旨の条項((1)においては第一二条、第一六条第一項、同第四項、(2)においては第一四条)が存在するところ、被告章は、右各保険契約を締結後、重複保険契約である同目録(5)及び(6)記載の保険契約を締結するについて、原告住友海上に対し、右の申出及び承認の請求をしなかつた。

イ 原告AIU

契約目録(二)の(5)記載の保険契約に適用のある普通保険約款には、保険契約者が契約締結当時既に重複保険契約を締結しているときは、保険契約申込書にその旨を記載しなければならず、故意または重大な過失によつて、右申込書に右重複保険契約締結の事実を記載しなかつたときは、原告AIUは契約を解除することができ、右解除が傷害の生じたのちになされた場合でも保険金を支払わない旨の条項(第一〇条第一項、第四項)が存在するところ、被告章は右保険契約締結当時既に同目録(1)及び(2)記載の各保険契約を締結していたのに、故意または少なくとも重大な過失によつて、右申込書にその旨を記載せずにこれを原告AIUに告知しなかつた。

また、右普通保険約款には、アに記載したのと同旨の条項(第一二条、第一六条第一項、第四項)も存在するところ、被告章は右契約締結後、重複保険契約である同目録(6)記載の保険契約を締結するについて、原告AIUに対し、その申出及び承認の請求をしなかつた。

ウ 原告AIA

契約目録(二)の(6)記載の保険契約に適用のある普通保険約款には、イの前段に記載したのと同旨の条項(第一〇条第一項、第四項)が存在するところ、被告章は右保険契約締結当時既に重複保険契約である同目録(1)、(2)及び(5)記載の各保険契約を締結していたのに、故意または少なくとも重大な過失によつて、保険契約申込書にその旨を記載せずこれを原告AIAに告知しなかつた。

(2) そこで、乙事件原告らは、被告章に対し、(1)記載の各事由に基づき、昭和六〇年一一月二三日到達の書面をもつて、原告住友海上は契約目録(二)の(1)及び(2)記載の、原告AIUは同目録(5)記載の、原告AIAは同目録(6)記載の各保険契約を解除する旨の意思表示をしたから、乙事件原告らには右各保険契約に基づく入院(所得補償)保険金の支払義務はない。

(3) 仮に右各条項の適用が不法な利得目的のある場合に限定されるとしても、前記(三)で述べた諸事情から見て被告章は不法に保険金を取得する目的で重複保険契約を締結したことが明らかであるから、右解除は許容されるべきものである。

(六) 損害の填補(丙事件原告ら)

仮りに、被告章が本件事故によつて受傷し、丙事件原告らがその治療費の損害賠償義務を負つているとしても、被告章に対しては、既に任意保険から七〇万円、原告上田から二万三〇八〇円が支払われており、被告章が丙事件原告らに対して賠償を請求し得る損害は、右によつてすべて填補されている。

5  ところが、被告章は、原告大同生命を除くその余の原告らに対し、前記各保険契約(但し、契約目録(一)の(11)記載の保険契約を除く。)に基づく保険金請求権または自賠法もしくは民法七〇九条に基づく損害賠償請求権がある旨主張し、被告千恵美は、原告大同生命に対し、契約目録(一)の(11)記載の保険契約に基づく保険金請求権がある旨主張している。

6  不当利益返還請求(原告AIU)

(一) 保険金の支払

原告AIUは、前記被告章の入院につき、契約目録(二)の(5)記載の保険契約に基づく入院保険金の一〇〇日分として、昭和六〇年六月六日、被告章に三〇〇万円を支払つた。

(二) 悪意の不当利益

4で述べたとおり契約目録(二)の(5)記載の保険契約は無効であるから、原告AIUは(一)記載の金員を法律上の原因なくして支払い、右同額の損失を被つたものであり、被告章は同額の利得を得た。

そして、4記載の事情によれば、被告章は右金員を受領する法律上の原因のないことを知つていたというべきである。

よつて、原告大同生命は被告千恵美に対し、その余の原告らは被告章に対し、請求の趣旨1、2、4記載のとおり、本件事故についての保険金支払義務及び損害賠償支払義務が存在しないことの確認を求め、さらに、原告AIUは、被告章に対し、請求の趣旨3記載のとおり、不当利得金と受領の日ののちである昭和六〇年六月一〇日から支払ずみまでの遅延損害金の支払を求める。

二  本訴(甲・乙・丙事件)請求原因に対する本訴被告らの認否及び主張

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4(一)は否認する。

被告章は、本件事故により、頸部・腰部捻挫の傷害を被つた。

3  同4(二)は争う。

4  同4(三)は争う。

被告章による保険契約の締結が短期間に集中していることは甲・乙事件原告らが主張するとおりであるが、被告らはその当時少額貯蓄非課税制度(いわゆるマル優)の廃止が噂されていたことから、それまで分散して預金していた手持ち資金の新たな利殖・投資先として保険加入を考え、各保険会社のパンフレツトを比較検討して二、三社との間で保険契約を締結するつもりで甲・乙事件原告らに架電してパンフレツトの送付を依頼したところ、甲・乙事件原告らが直ちに外交員を派遣してきて保険加入を執拗に勧誘したため、被告章は断わり切れずに各保険契約を締結したものである。被告らは、各保険契約の締結に際して、他にも保険契約を締結しており、その他にも勧誘を受けていることを告知したが、右外交員らは自社の保険に加入していないのであれば他社の保険に何社加入していようと問題はない旨説明していたものである。

また、甲・乙事件原告らは、契約目録(一)記載の各保険契約がいずれも貯蓄性のない掛け捨て型か貯蓄性の乏しい保険重視型の保険であると主張するが、被告らは保険契約の内容・形態について全くの素人であり、主観的には貯蓄性の高い保険に加入したつもりであつたものである。

さらに、甲・乙事件原告らは各保険契約による入院給付金及び入院保険金並びに保険料が収入に比して多額である旨主張するが、被告らは、当時精肉販売業を営むかたわらスナツク二店舗を経営しており、その年収は二〇〇〇万を下らなかつたのであるから、万一の場合の保障として本件程度の金額は不自然ではなく、現実に本件事故発生までの約六か月間は本件各保険契約の保険料を支払つていたのであるから、負担能力に問題のなかつたことは明らかである。

5  同4(四)は争う。

6  同4(五)のうち、解除の事実は認めるが、各約款の条項とこれに基づく解除の効力は争う。

契約目録(二)記載の各保険契約に適用のある普通保険約款中の通知義務に関する条項は、火災保険契約の普通保険約款の同旨の条項をそのまま引用したものであるが、定額保険である損害保険契約や所得補償保険契約をこれと性質を異にする損害保険契約と同一に処理しようとする点で妥当でないから、そのまま効力を認められるべきではない。

7  同4(六)のうち、本件事故に関し被告章に対し合計七二万三〇八〇円が支払われた事実は認める。

8  同5は認める。

9  同6(一)の事実は認め、同(二)は争う。

三  反訴請求原因

1  保険契約の締結

(一) 本訴請求原因三(一)のとおり。

(二) 乙事件原告らはいずれも損害保険業を営む会社であるところ、被告章は、乙事件原告らとの間で、乙事件原告らを保険者、被告章を被保険者として契約目録(二)記載の各保険契約を締結した。

2  事故の発生並びに原告阪神商事及び原告上田の責任原因本訴請求原因1及び同3(三)のとおり。

3  受傷内容及び治療経過

被告章は、本件事故により、頸部・腰部捻挫の受傷を受け、その治療のため、大野病院に次のとおり入通院して治療を受けた。

<1> 昭和六〇年二月五日から七日まで通院

<2> 昭和六〇年二月八日から同年六月三〇日まで入院(一四三日)

<3> 昭和六〇年七月一日から同六二年七月三一日まで通院

4  保険金額及び損害額

(一) 3記載の本件事故による傷害の治療のための一四三日間の入院は、契約目録(一)及び(二)記載の各保険契約の保険事故に当たるから、契約目録(一)記載の各保険契約に基づき、いずれも約款上の入院給付金の上限である一二〇日分(約款上の上限)の入院給付金として、原告平和生命が一五六万円、原告協栄生命、原告住友生命、原告第一生命、原告朝日生命、原告第百生命、原告明治生命及び原告安田生命は各一二〇万円、原告東京生命は七八万円、原告千代田生命は六〇万円を被告章に支払う義務があり、また、契約目録(二)記載の各保険契約に基づく入院保険金及び所得補償保険金として、原告住友海上は四一八万五七五〇円は、原告AIUは一二九万円(一四三日間の入院期間中支払を受けた一〇〇日分を控除した四三日分)、原告AIAは一四三万円を被告章に支払う義務がある。

(二) 被告章は、前記治療のために、四四二万三五三〇円の治療費を要した。

よつて、被告章は、原告平和生命に対し一五六万円、原告協栄生命、原告住友生命、原告第一生命、原告朝日生命、原告第百生命、原告明治生命及び原告安田生命に対し各一二〇万円、原告東京生命に対し七八万円、原告千代田生命に対し六〇万円、原告住友海上に対し四一八万五七五〇円、原告AIUに対し一二九万円、原告AIAに対し一四三万円の各支払を求めるとともに、原告阪神商事及び原告上田に対し、不法行為による損害賠償として、前記損害額四四二万三五三〇円の支払を求め、被告千恵美は、原告大同生命に対し、一二〇万円の支払を求める。

四  反訴請求原因に対する反訴被告らの認否及び主張

1  請求原因1、2は認める。

2  同3のうち、原告の受傷の点は否認し、その余は不知。

仮りに被告章が本件事故により頸部・腰部捻挫の傷害を受けたとしても、本訴請求原因4(一)で述べたような事情に照らせば、その傷害の程度は軽微なもので、主張のような長期にわたる入院の必要性は存しない。

3  同4は争う。

五  反訴被告らの抗弁

1  公序良俗違反による保険契約の無効(甲・乙事件原告ら)

本訴請求原因4(三)のとおり。

2  詐欺による保険契約の無効(甲事件原告ら)

本訴請求原因4(四)のとおり。

3  通知義務違反ないし告知義務違反による保険契約の解除(乙事件原告ら)

本訴請求原因4(五)のとおり。

4  損害の填補(丙事件原告ら)

本訴請求原因4(六)のとおり。

六  抗弁に対する反訴原告らの認否

本訴請求原因4の(三)ないし(六)に対する認否及び主張のとおり。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一本訴(甲・乙・丙事件)について

一  本訴請求原因1ないし3及び同6(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  ところで、甲・乙事件原告らは、契約目録(一)((5)(イ)を除く。)及び契約目録(二)記載の各保険契約は、被告らが保険事故を故意に招致し、もしくは保険事故を仮装し、または偶発的な事故に乗じて被害を実際より大きく仮装することによつて不法に保険金(入院に伴う)を取得しようとする目的で締結したもので、いずれも公序良俗に反するものとして民法九〇条により無効であるから、甲・乙事件原告らにはこれらの契約に基づく保険金支払義務はない旨主張する。

1  そこで、まず右各保険契約の締結時の状況について検討するのに、前記争いのない事実に、成立の争いのない甲A第一三号証の一ないし一一、甲B第六、第七号証、同第一〇、第一一号証、証人奥村茂の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲A第一二号証の一ないし一一、甲事件原告らとの間では成立に争いがなく乙・丙事件原告らとの間では弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第七号証、証人田中功、同松下和彦、同奥村茂の各証言及び被告章本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない

(一) 契約目録(一)((5)(イ)を除く。)及び契約目録(二)((3)、(4)を除く。)記載の被告章と甲・乙事件原告ら保険会社一五社間の各保険契約の締結日は昭和五九年七月一〇日から同年九月一日までの間に集中しており、特に、保険契約締結のために保険契約者(被保険者)側がなすべき行為である契約申込書及び告知書の作成については、被告章は、同年七月一〇日に契約目録(二)の(1)の契約の申込書並びに同目録(2)の契約の申込書及び告知書、同年一七日に契約目録(一)の(3)の契約の告知書及び同目録(7)の契約の申込書、同月一九日に契約目録(一)の(3)の契約の申込書並びに同目録(5)(ア)の契約の申込書及び告知書、同月二〇日に契約目録(二)の(5)の契約の申込書、契約目録(一)の(9)の契約の申込書及び告知書、同目録(10)の契約の申込書並びに同目録(11)の契約の申込書、同月二二日に同目録(7)の契約の告知書、同月二三日に同目録(6)の契約の申込書及び同目録(10)の契約の告知書、同月二四日に同目録(4)の契約の申込書及び告知書並びに同目録(11)の契約の告知書、同月二五日に同目録(1)の契約の申込書及び告知書、同月二六日に同目録(6)の契約の告知書、同月二七日に同目録(1)の契約の告知書、同月三〇日に同目録(2)の契約の申込書及び妻と子に関する告知書、同月三一日に同目録(2)の契約の告知書、同年八月一日に同目録(8)の契約の申込書、同月二日に同目録(8)の契約の告知書及び契約目録(二)の(6)の契約の申込書を作成している(被告千恵美が署名・捺印を代行したものもあるが、いずれも被告章の意思に基づくものである。)。

(二) 当時原告住友海上の特別研修員であつた訴外田中功は、原告住友海上の大阪支社に被告千恵美から保険に加入したい旨の電話があつたことから、昭和五九年七月一〇日の夜に被告章、同千恵美ら宅を訪問し、同被告らから、被告章が食肉卸業を営み、被告千恵美がスナツクを経営していて、夫婦双方で月四、五〇〇万円の収入があるが、万一の病気や事故に対する保障のために保険に入りたいとの希望を聞き、普通傷害保険と所得補償保険を締結するように勧めた(その際、所得補償保険金を請求するには、就労不能となる直前に保険金額に対応する収入があつたことを証する帳簿類等の資料を提出しなければならないとの説明をしている。)。右説明を受けて、被告章は、できるだけ多額の補償を得られる保険を希望したが、右田中から入院保険金が日額一万五〇〇〇円、通院保険金が日額一万円という損害保険協会が定めた損害保険会社全社を通じての引受限度額がある旨の説明を受けて、同日、契約目録(二)の(1)、(2)記載のとおりの内容の契約申込書を作成して右田中に交付した。なお、当時、右田中は保障が少ない代わりに貯蓄性が高い保険も取り扱つていたが、被告章からそのような保険契約を締結したいとの希望は聞かなかつた。

(三) 昭和五九年七月八日、原告住友生命泉尾営業所に被告千恵美から「セールスで宮本さんという方はいますか。宮本さんとは友達で一件加入してあげようと思う。いなければ誰か訪問してほしい。」との電話があつたので、同営業所の営業員が同月一〇日と同月一二日に被告ら宅を訪問して保険の説明をした。同月一六日にも営業員が被告ら宅を訪問したが、その際、被告千恵美(被告章は不在であつた。)が特約の入院給付金につき、それまでに説明を受けていた日額五〇〇〇円から一万円に増額したいと希望したので、営業員が日額一万円の特約をするには本契約の死亡保険金額を三〇〇〇万円以上にする必要があり、保険料も高額になる旨説明したところ、同被告は、しばらく考えたうえで、右説明に副つた契約目録(一)の(3)記載のとおりの保険契約を締結することを承諾した。

(四) 昭和五九年七月上旬ころ、被告章から訴外ミリオンカード株式会社に対し、定期保険等の資料がほしいとの電話があつたので、同社が提携関係にある原告千代田生命に連絡し、原告千代田生命が外務員を派遣した結果、契約目録(一)の(6)記載のとおりの保険契約を締結するに至つたが、その際、被告章は日額一万円の入院給付金特約を希望したけれども、原告千代田生命が規定を理由に応じなかつたため、右のとおり日額五〇〇〇円の特約の契約が締結された。

(五) 昭和五九年八月一日に、被告章から原告AIAの営業所に傷害保険に入りたい旨の電話があつたので、原告AIAの保険代理業者である訴外松下和彦が翌日八月二日に同被告宅を訪問し、同被告から契約目録(二)の(6)記載の保険契約の申込を受けているが、その際、被告章は、右松下から原告AIAの規定では入院保険金の日額は一万円が限度であるとの説明を受けると、もつと多額の入院保険金にしたいと希望し、右松下は特認という形で一万五〇〇〇円の特約ができないかを検討する旨を約したものの、結局契約目録(二)の(6)記載のとおり、入院保険金日額一万円で契約を締結した。また、その際、右松下は、被告章に対し、損害保険契約と生命保険契約の違いを説明したうえで、他の損害保険契約の締結の有無を訪ねているが、被告章はないと答えた。

(六) 被告章は、契約目録(一)の(11)記載の契約を締結するに当たつて、死亡保険金五〇〇〇万円の本契約に入院給付金日額一万円の特約を付することを希望したが、結局死亡保険金一億円の本契約に被告章の希望した日額一万円の特約を付することになつた。

(七) 契約目録(1)、(2)、(4)、(7)ないし(9)記載の各保険契約も、被告章、同千恵美らが各保険会社営業所に架電したことから契約に至つたものである。

(八) 被告章は、契約目録(一)の(5)(ア)記載の保険契約締結の際に、原告東京生命の外務員に対し、過去二か月以内の申込または同時申込中の保険契約はない旨述べた。また、同目録(10)記載の保険契約締結の際に原告安田生命の外務員に対し、既契約状況として、訴外日本生命保険相互会社(以下、「訴外日本生命」という。)との間の死亡保険金一五〇〇万円の保険契約のみを告知したが、実際には同社との間で昭和五七年六月四日に死亡保険金五〇〇万円の保険契約を締結しているほか、昭和五九年七月二四日にも死亡保険金四一〇〇万円の生命保険契約を締結している。

(九) 被告章は、当時食肉卸業に従事しており、前記各保険契約の締結に際しても、食肉卸業ないし同販売業を自営していると述べているが、その屋号について、契約目録(一)の(2)、同目録(6)、同目録(7)、同目録(11)記載の各契約の申込に際しては丸章、同目録(5)記載の契約の申込に際しては<章>商店及び丸章、同目録(4)記載の契約の申込に際しては桑江商店及び丸章、同目録(10)記載の契約の申込に際しては肉の丸章、同目録(3)、同目録(8)、同目録(9)記載の各契約の申込に際しては桑江商店、従業員数についても同目録(3)記載の契約の申込に際しては一〇名、同目録(4)記載の契約の申込に際しては五名と申述するなど申述内容はまちまちであり、さらに、契約目録(二)の(6)記載の契約を締結する際、訴外松下和男に対して黒門市場の中で肉屋を経営していると虚偽の事実を述べた。

(一〇) 昭和五九年九月以降に被告章が入院した場合に、契約目録(一)((5)(イ)を除く。)記載の各保険契約の入院給付金特約に基づき被告章及び被告千恵美が取得し得る入院給付金の合計額は、疾病入院の場合が一日あたり八万八〇〇〇円、災害入院の場合が一日あたり一〇万三〇〇〇円となり(このほかに、以前から締結していた同目録(一)の(5)(イ)を含む三件の生命保険契約及び訴外日本生命との間で昭和五九年七月二四日に締結された生命保険契約に基づく入院給付金が合計二万一五〇〇円ある。)、契約目録(二)の(1)、(5)及び(6)記載の保険契約に基づく入院保険金合計額も一日あたり五万二〇〇〇円となるほか、入院により就労不能であつたことに対し、同目録(2)の契約に基づく所得補償保険金が月額三〇万円支払われることになる。そして、右各保険契約のために被告章が同月以降毎月支払う保険料の合計額は月額三〇万二六七八円に達しており、以前から締結していた三件の生命保険契約(契約目録(一)の(5)(イ)を含む。)及び訴外日本生命との間で昭和五九年七月二四日に締結した生命保険契約の保険料を合わせると、一か月あたりの保険料の額は三六万円を超えている。

(一一) 契約目録(一)((5)(イ)を除く。)記載の保険契約並びに契約目録(二)の(1)、(2)、(5)及び(6)記載の各保険契約は、以下に述べるとおり、いずれも貯蓄性がない掛け捨て型のものかまたは貯蓄性を薄くして保障機能を重視した性格のものである。

(1) 契約目録(一)の(1)記載の生命保険契約には満期返戻金はなく(保険期間は二五年間)、生存給付金支給条項が定められているものの、その内容は、契約者(被告章)に対し生存を条件として、契約日から五年後に一口一五万円(本件の場合は二口分三〇万円)、一〇年後に一口二〇万円(同四〇万円)、一五年後に一口二五万円(同五〇万円)、二〇年後に一口四〇万円(同八〇万円)をそれぞれ支払うというもので、その合計額は、二〇年間の払込期間中に支払うべき総保険料よりもはるかに少ない。

(2) 契約目録(一)の(2)記載の生命保険契約は、被保険者死亡の場合の保険金である一時金及び家族年金給付を重視したものであつて、保険期間が終身にわたり、終身年金の支給が定められているものの、その内容は、被保険者が満六四歳六か月を超えたのちの最初の契約日応当日以降毎年の応当日に被保険者の生存を条件として、一年目は三六万円、以後毎年五分ずつ増額(但し、五四万円に達するまで)して支払うというものであり(但し、当初から一〇年間の年金は死亡した場合も支払われる)、被保険者が満六四歳六か月を超えたのちの最初の契約日応当日以降の死亡保険金も当該年に支払われる右年金額と同額で、被保険者が若年で死亡した場合の給付金と比べるとはるかに少ない。

(3) 契約目録(一)の(3)記載の生命保険契約も保険期間が終身にわたるもので、高度障害保険金を除けば生存を前提とした給付金の定めはなく、満六〇歳を超えて死亡した場合の保険金も同記載のとおり低額で、貯蓄性はない。

(4) 契約目録(一)の(4)記載の生命保険契約も保険期間が終身にわたるもので、累積生存保険金の給付条項はあるが、貯蓄性を肯定し得るような額ではなく、満五五歳以降の死亡保険金も同記載のとおり低額である。

(5) 契約目録(一)の(5)(ア)記載の生命保険契約も保険期間が終身にわたるもので、高度障害給付金を除けば生存を前提とした給付金の定めはなく、満六〇歳以降の死亡保険金も同記載のとおり低額である。同契約の申込書は生存給付金のないA型とこれのあるB型を選択できる形になつているが、被告章はA型を選択して契約している。

(6) 契約目録(一)の(6)記載の生命保険契約の保険期間は三〇年間で、満期返戻金は八〇万円である。

(7) 契約目録(一)の(7)記載の生命保険契約は保険期間が終身にわたるもので、保険事故を前提としない生存給付金の定めはなく、満五五歳を超えて死亡した場合の保険金も同記載のとおり低額である。

(8) 契約目録(一)の(8)記載の生命保険契約の保険期間は三〇年間で、満期返戻金は一〇〇万円である。

(9) 契約目録(一)の(9)記載の生命保険契約の保険期間は二五年間で、満期返戻金は一五〇万円である。

(10) 契約目録(一)の(10)記載の生命保険契約は保険期間が終身にわたるもので、保険事故を前提としない生存給付金の定めはなく、契約締結後一五年を経過したのちの死亡保険金も同記載のとおり低額である。

(11) 契約目録(一)の(11)記載の生命保険契約の保険期間は一〇年間であるが、満期返戻金の定めはない。

(12) 契約目録(二)の(1)、(2)、(5)及び(6)の保険契約には満期返戻金の定めはない。

(一二) 被告章は、原告朝日生命との間で、契約目録(一)の(7)記載の保険契約を締結した際、個人年金保険「かがやき」のパンフレツトを交付されており、右は払込保険料に比して老後に高額な年金を受領し得る貯蓄性のある保険であるが、これには加入しなかつた。

(一三) 生命保険契約を手持ち資金の利殖の手段にしようとする者は、満期保険金が支払保険料より多い保険、中でも有利な保険料一時払方式の養老保険を選択して契約するのが通常である。生命保険会社にとつても、多額の保険料の支払を一時に受け得る一時払養老保険契約の締結を回避する理由はない(一時払養老保険については自発的な契約申込に対しても警戒していない。)から、仮に加入希望者に保険契約に関する知識がなかつたとしても、利殖が希望である旨を述べれば、外務員や代理店の方で一時払養老保険を勧めたはずである。なお、昭和五九年七月当時は、公定歩合は五パーセント、銀行の一年定期預金の利率が五・五パーセントであつたのに対し、期間五年の一時払養老保険の利回りは約八・五パーセントであつて、一年に換算した利率は約七・三パーセントになつていた。

右認定の被告章の保険契約締結状況はきわめて異様というべきであつて、それ自体不法な保険金取得目的の存在をうかがわせ得るものである。

なお、被告章、被告千恵美らは、かかる集中的な保険加入の理由として、当時少額貯蓄非課税制度(いわゆるマル優制度)の廃止が噂されていたことから、それまで分散して預金していた手持ち資金の新たな利殖方法として保険に投資した旨主張し、被告章本人尋問の結果中には、当時数行に分けて口座も架空名義を用いて分散した形で三〇〇〇万円から四〇〇〇万円の預金があつたとの右主張に副う供述部分があるが、訴外大同信用組合大正支店だけで三〇ないし四〇の口座を開いていたと述べながら用いた架空名義の名前は一つも覚えておらず、また、集中的に定期預金の満期が来た理由として、昭和五六年ころに輸入肉の取引で二〇〇〇万円から三〇〇〇万円の利益を得て定期預金にしたためであると述べながら、右取引については、取引の相手等具体的な点については一切述べず、また、マル優制度廃止に備えて満期の来た二〇〇〇万円以上の定期預金の利殖方法として保険に投資したと述べながら、毎月の保険料を支払つた残りは箪笥預金にしていたと述べるなどそれ自体措信し難いものであるばかりか、前認定のとおり、被告章が加入した生命保険はいずれも貯蓄性のない掛け捨て型か貯蓄性の乏しい保障重視型のものであり、損害保険も満期返戻金のないものであつて、右主張と全く矛盾する内容になつており、仮に被告章に保険に関する知識が乏しかつたとしても、被告章が供述するように真に保険による利殖の希望を持つており、これを保険外務員や代理店に伝えていたのであれば、一時払養老保険等の利回りの良い保険が推奨されたであろうことは前認定のとおりであるから、被告らの主張に副う前記供述部分は到底信用することができない。

さらに、被告章、被告千恵美らは、当時、精肉販売業やスナツクの経営で多額の収入を得ており自営業であるためその保障が必要であつたとも主張し、保険契約締結の際に保険会社の外務員や保険代理店に対してそのような加入動機の説明をしていることは前認定のとおりであり、被告章本人尋問の結果中にも、昭和五九年七月当時、精肉の仲買人として毎月二〇〇〇万円から三〇〇〇万円の仕入れに対して三〇〇〇万円から四〇〇〇万円の売上があり、精肉業だけで毎月五〇〇万円から六〇〇万円の利益があつたほか、スナツク二店舗を妻である被告千恵美の名義で経営していて毎月約六〇〇万円の売上で約二〇〇万円の利益があつたと述べる部分があるが、被告章の本人尋問における供述は、精肉業の取引先として主張している仕入先六業者、販売先一五業者(給食会社を含む。)について、その名称を空で言えるのは、仕入先三業者だけで、販売先は一つもないうえに、名前を挙げて質問されても所在地さえ述べることができず、六、七年にわたる付き合いの業者もあると述べながらその所在地の目標さえ答えることができないというもので、到底信用することができず、しかも、被告千恵美名義のスナツクの営業許可証(成立に争いのない乙第一二号証)を提出した以外には被告章及び被告千恵美らに収入があることの証明となるような客観的な資料は全く提出されておらず、被告章本人尋問の結果中にも、多額の取引を行つていたという精肉業につい取引先等の協力を得て資料を提出することもできないことにつき、何ら合理的な説明はないから、万一の入院という事態に備えて毎月三六万円以上もの保険料を負担することが不自然でないことをうかがわせるような反証は全くなされていないと言わざるを得ない(仮りに相当の収入があつたとしても、そのような多額の保険料を負担して万一の事態に備えるよりも、手持ち資金を運用して利殖を計つて余剰資金を確保しておくのが通常であり、むしろ合理的である。)。

また、前掲甲B第九号証の一ないし三、甲・乙事件原告らとの間では成立に争いがなく丙事件原告らとの間では証人田中功の証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証及び証人田中功の証言によれば、契約目録(二)の(4)記載の契約(三口)は三年満期で、同時に契約した積立動産総合保険(三口)の保険料を合わせて契約時に一括払の保険料三〇〇万円を支払い三年後に三二一万円の満期返戻金を受け取る貯蓄性のある保険であること、訴外田中功は、昭和六〇年七月一〇日に、被告章との間で、右保険契約を被告章が途中解約した場合には、その際の解約返戻金と三〇〇万円を銀行に預金した場合の元利合計との差額を自己が負担して支払う旨の約束をしたことが認められるが、右契約の締結は本件事故が発生したのちのことであるから、右事実の存在が不法な保険金取得目的の存在の推認の妨げとなるものではない。

2  次に、本件事故の状況及びその後の被告章の入院の経過について検討するのに、成立に争いのない甲C第四ないし第七号証、同第八号証の一、二、同第九号証の一ないし三、同第一〇号証、同第一一号証の一ないし一一、同第一二ないし第一四号証、同第一五号証の一、二、同第一六、第一七号証、同第一八号証の一、二、同第一九ないし第二一号証、同第二二号証の一ないし八、同第二三号証、同第二四号証の一ないし四、同第二五号証の一ないし四、同第二六ないし第二九号証、乙第二、第三号証、原本の存在・成立に争いのない乙第五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲A第一四号証、乙第四号証、証人森井孝和の証言及び被告章本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 本件事故は、被告章が桑江車を運転して、本件事故現場の道路(御堂筋と呼ばれているアスフアルト舗装された南行一方通行の六車線の道路で、本件事故当時路面は乾燥していた。)の東西二本のグリーンベルト(緑地帯)に挟まれた中央の四車線の中で最も西寄りの車線を時速約三〇キロメートルで進行中、自車の進路前方に他車が割り込んできたとして急制動をし、そのため上田車を運転して桑江車の直後をほぼ同速度で走行していた原告上田が左前方に注意を奪われていたこともあつて桑江車の約四・六メートル後方まで接近して初めて桑江車の制動に気付き、ハンドルを左に切るとともに急制動の措置を講じたが間に合わず、右発見箇所から約九・一メートル進行した地点で急停車直後の桑江車に上田車の右前角部が追突し、桑江車を約六〇センチメートル前方に押し出したというもので、被告章は、右衝突直前には急制動を掛けたために前のめりの姿勢になつていたが、衝突による衝撃で身体を後ろへ引き戻されシートに身体が打ち付けられた。なお、桑江車の運転席にはヘツドレストが設置されていた。

(二) 桑江車は一九八〇年式のメルセデスベンツで、その車体重量は一八三〇キログラムあるのに対し、上田車の車体重量は六五〇キログラムであり、本件事故当時、両事故車両の乗員は運転者のみで、双方とも特に積荷はなかつたが、本件事故の結果、桑江車の後部バンパー、リアパネル、リアマフラーについては交換を要し、左右双方のリアフエンダーパネルとトランクフロアパネルについても板金修理を要するほど損傷し、上田車も右フロントフエンダーが右ドアの開閉に支障をきたすほど損傷した。

(三) 被告章は、事故後間もなく、左下肢のしびれと背中から腰にかけての痛みを訴えて大野病院を受診したが(受診時には事故当日の昭和六〇年二月四日午後一二時が過ぎ同月五日に入つていた。)、レントゲン検査上は異常所見はなく、湿布と鎮痛剤の処方を受けただけであり、その後南警察署で車体の実況見分と事情聴取を受けて午前三時半ころ帰宅し、翌二月六日には、右上下肢と左下肢のしびれ、腰痛、頸部痛を訴えて、医療法人きつこう会多根病院の整形外科と脳外科を受診した。被告章は、次いで同月七日に大野病院を受診し、診察に当たつた同病院の山崎医師に頸部痛及び腰痛を訴えたが、診察の結果は、ジヤクソンテスト、スパーリングテストが陽性で、レントゲン検査上も第四・第五腰椎間(第四腰神経根の位置)にわずかながら狭小化が認められ、下肢伸展挙上テスト(SLR、仰向けに寝た状態で下肢がまつすぐに伸ばして挙上させるテスト、正常値は九〇度)の結果は右五〇度、左三〇度で、腰部硬膜外ブロツク施行後も右六〇度、左四五度程度にしか改善せず、特に腰痛からくるものと考えられる左下肢の疼痛としびれの訴えが強かつたので、山崎医師は入院させた方が良いと判断して、入院の指示をした。

(四) 被告章は、翌二月八日午後に独歩入院し(主治医は訴外森井孝和医師、以下、「森井医師」という。)、入院時の主訴は頸部痛(全方向の運動制限と運動時痛、なお、同月一九日の計測によると、自動で前屈二〇度、後屈一五度、側屈左一五度、右一〇度、回旋左一五度、右一〇度であつた。)と左大腿から足先にかけての疼痛、しびれであり、その他に右前腕外側から母指にかけてのしびれ、腰痛(同月一九日の計測によると、体幹の運動範囲は自動で前屈二〇度、後屈一〇度、側屈左一五度、右二〇度であつた。)、全身倦怠感を訴え、両側の長母趾伸筋(第五腰神経根、L5の支配領域である。)の筋力低下が認められたが、上腕二頭筋反射、同三頭筋反射、膝蓋腱反射(反射異常は第四腰神経根、L4の障害を示す。)、アキレス腱反射(反射異常は第一仙骨神経根、S1の障害を示す。)は正常であつた(入院中腱反射の異常は全く認められていない。)。そこで、森井医師は、頸部を固定して安静を保ち(当初は砂嚢で固定し、同月一二日から同月二六日までネツクカラーを装着させている。)、湿布と消炎・鎮痛剤等の投与を行いながら(これは退院まで継続している。)、時期を見て理学療法を行なうことにした。

(五) 森井医師は同月一九日から理学療法を開始し(同日ころから、右上肢のしびれの部位は前腕内側から第三ないし第五指にかけてに変わり、頭重感とときに嘔気を訴えるようになつたが、その他の訴えに著変はなかつた。)、当初は頸部及び腰部のホツトパツクと腰椎牽引(当初三〇キログラム、一〇分、同年三月九日から二五キログラム)を行い、同月二六日から頸部の軽い牽引(五キログラム、五分)を行うとともにネツクカラーを中止し、同月二七日には頸部軟部組織についての伸展・屈曲運動をするように指導した。さらに、同年三月五日からは腰痛体操を行なうように指示したが、被告章は、当初腰痛の増大、下肢のしびれ等を理由に腰痛体操を休むことが多かつた。

(六) 同年三月四日に被告章の左下肢の症状に対し硬膜外ブロツクを施行したところ、SLRの数値が双方とも七〇度までに改善し、それまで歩行に際して左足を引きずつていたのが、右施行後は四月上旬ころまで消失した(被告章がこのことを大変喜んでいたと三月四日の看護日誌に記録されている。)。しかし、左下肢のしびれは消えず(三月四日ころからその部位は左下肢外側が中心になり、右部位は第五腰神経根、第一仙骨神経根の各支配領域に一部対応しているが対応関係は明確ではない。)、同月六日深夜には下肢のしびれのために入眠が困難であると訴えたため、医師の判断により制酸剤であるアルミゲルを偽薬として投与したところ、良眠できたということであつたので、以後も、被告章の不眠や頭痛、腰痛の訴えに対してしばしばアルミゲルや賦活剤である乳糖が投与されている。

(七) 昭和六〇年四月二二日にはミエログラフイーが施行されたが、ミエログラフイー上はレントゲン写真で認められる第四・第五腰椎間の狭小化について、これが疼痛の原因になつていることをうかがわせる所見はなく、その他の異常所見も認められなかつた。森井医師は、右所見に比して被告章の症状の訴えが大きいことから、被告章の症状は精神的要因によつて拡大されている要素があるものと判断しており、また、被告章の第四・第五腰椎間の狭小化はごく軽いもので、本件事故によつて生じたものか他の原因によるものかを確定することはできないと考えている。

(八) 森井医師は、同年四月二日に被告章の腰痛に対して、仙骨孔ブロツクを施行したが、被告章は翌日からかえつて腰痛がひどくなつたと訴え、同月一一日ころから歩行時に再び跛行するようになつた。また、下肢のしびれの部位についても同月二三日ころから次第に両下肢全体のしびれを漠然と訴えるようになつた。さらに、このころから被告章には、テレビを鑑賞しながら腰痛・頭痛等あれこれの症状を訴えたり(同年四月四日)、不眠を訴えて睡眠剤を求めながら、眠る努力をせずテレビ鑑賞を続けたり(同月一〇日)、心臓が重く締めつけられると訴えているのに整脈で、呼吸も穏やかであつたり(同月一二日)、頭痛及び胃部の不快を訴えながら喫煙をしていたり(同月二一日)、嘔気があつて、頭痛ががんがんすると訴えながら顔色が良好であつたり(同月二三日)、心臓が痛いような気がすると訴えながら喫煙所で他の患者と饒舌に話したりしている(同年六月七日)など、不自然な言動が見られるようになつた。

(九) さらに、被告章の腰痛についても、同年五月ころになつてもその訴えは初診時とほぼ変わらずに持続しており(同月一四日の計測によると体幹の運動範囲は自動で前屈は二〇度、後屈は一〇度、側屈は左が五度、右が一〇度であつた。)、歩行上の支障も、本人の訴えによれば同月一三日に低周波療法を開始するまで改善がないはずであるのに、他の部屋をうろうろし、風呂に行くと言つて外出して二時間も遅れて帰室したり(同月六日)、前夜に腰痛が自制できないので坐薬を挿入したがあまり効かなかつたしどうしたらいいだろうと言いながら笑顔が見られたり(同月七日)、頸部痛、腰部痛及び両下肢のしびれを訴えながら外出して帰室予定より二時間も遅れて帰室したり(同月一二日)、座位でいると腰痛が強いと訴えながら面会者と座位で話し込んでいたり(同年六月二八日)するなどの行動が見られたため、看護記録に訴えの割には行動が伴つていないと指摘されている。また、同月ころになつても、頭痛、頭重感、めまい、耳鳴り、嘔気、腰部から両下肢にかけてのしびれ、不眠、全身の倦怠感等の症状を訴えているが、しびれを訴える部位も広範かつ一定せず、看護記録に訴える症状に取りとめがなく、訴えの割には安静がとれていないと指摘されている。

(一〇) 同年五月一日ころには、被告章の上肢のしびれは殆どなくなり、頸部についても依然全方向の可動制限を訴えるものの、可動範囲には改善が見られるようになつたので、森井医師は同月中から被告章に対して社会復帰のためにも通院治療に切替えた方が良い旨を説得し始めた。しかし被告章はその後も入院継続を希望し、結局同年六月三〇日に退院したが、右退院時には頸部の可動域はほぼ完全に回復していた。

(一一) 被告章は、退院後も昭和六三年七月まで通院を継続しており、同年五月ころにも、依然、腰痛及び両下肢のしびれ感を訴えていた。

(一二) 森井医師は、以上の被告章の症状について、特に詐病を疑つたことはなかつた。

なお、被告章は、本件事故の原因となつた前認定の急制動措置をとつたのはグリーンベルトに停車していたタクシーが自車の前方に出てきたためであると主張し、前掲乙第五号証及び被告章本人尋問の結果中には、右主張に副う記載がないし供述部分があるが、タクシーの割り込み運転があつたことを裏付ける客観的な証拠は存在しない。

3  右1、2で認定したところによれば、被告章、被告千恵美らは、昭和五九年七月上旬から順次甲・乙事件原告らの営業所等に架電して保険加入の意思がある旨を告げたり、資料を要求するなどして保険加入に積極的な態度を示し、これを受けて来訪した外務員、代理店らと面談のうえ、同月一〇日から同年八月二日までの間に、被告章において(但し、一部は被告千恵美が代行した。)、契約目録(一)((5)(イ)を除く。)及び契約目録(二)((3)、(4)を除く。)記載の一五件の保険契約の申込をするという典型的な自発的、短期集中的大量加入をしており、しかも、右各保険契約はいずれも貯蓄性の薄い保障重視型の入院給付金特約付の保険契約であつて、被告章にはこのように保険契約を大量締結する合理的な理由があり、高額な保険料を払い続けることが可能なほどの収入があることを認めるに足りる証拠は存しないことに加えて、前認定の事実によれば、被告章、被告千恵美らは、右各保険契約締結に際し、入院に対する給付の内容に特に強い関心を持ち、より高額の給付を受け得る契約を望んでいたことが推認されること、前認定のとおり、訴外田中功から損害保険会社全体を通じての入院保険金の引受限度額について説明を受けながら、合計すれば入院保険金の額がこれをはるかに上回る契約を締結し、かつ、その際に他の保険契約の存在や自己の職業に関して虚偽の事実を告げていること、さらに、前認定の事実によれば、本件事故後の被告章の入院のうち少なくとも昭和六〇年五月以降については、症状を誇張して入院期間を引き伸ばしていたことがうかがわれること、前記のとおり、本件事故の偶然性については、必ずしも客観的な証拠があるとはいえないことなどの点を考慮すれば、被告章による前記各保険契約の締結は、故意に保険事故を招致したり、保険事故を仮装したりするか、少なくとも事故に乗じてこれによる受傷の症状を誇張して不必要な長期入院をすることによつて不法に入院に基づく保険金を取得しようとする目的で締結されたものと推認することができる。

なお、前掲の甲A第一三号証の四によれば、原告第一生命の外務員である訴外榎勢一枝は、契約目録(一)の(4)記載の保険契約を締結する前の被告章、被告千恵美らとの交渉段階において、訴外日本生命及び原告住友生命の外務員が保険契約締結の勧誘のために同被告ら宅を訪問していることを知つていたことが認められるが、右は、同被告らの積極的な告知によるものであるかどうかが定かでないばかりか、甲A第一三号証の四中の右事実の記載がある副申書部分が作成された昭和五九年七月二四日は、右保険契約の申込書が作成された日であつて、前認定のとおり、被告章はその時点で既に右二社以外の原告保険会社数社に保険契約の申込をしているのであるから、右記載は、かえつて被告章がこの事実を申込書作成のために訪問した訴外榎勢一枝に対して秘匿したことを示すものであつて、右事実の存在は、前記推認の妨げとなるものではない。

従つて、右目的で締結された契約目録(一)((5)(イ)を除く。)及び契約目録(二)((3)、(4)を除く。)記載の各保険契約は、個別的に見れば、その内容に公序良俗に反する点はないとしても、これを全体として見れば、不法な利得目的を達成するための不可欠の手段として締結したものであり、その締結状況及びこれによる保険給付の異常性をも考慮すれば、いずれも公序良俗に反するものとして無効であるというべきである。

三  そうすると、甲・乙事件原告らは、契約目録(一)((5)(イ)を除く。)及び契約目録(二)((3)、(4)を除く。)記載の各保険契約に基づく保険金支払義務はなく、また、右無効の保険契約に基づく原告AIUの被告章に対する入院保険金三〇〇万円の支払はその法律上の原因を欠くものというべきである。そして、前認定の事実によれば、被告章は、悪意の利得者であると認めるのが相当であるから、右三〇〇万円に受領の日から民法所定の年五分の利息を付して返還する義務を負うことになる。

四  さらに、原告東京生命は、昭和四九年に締結された契約目録(一)の(5)(イ)の契約に基づく入院給付金債務についても、不存在の確認を求めているので、この点について判断する。

ところで、原告東京生命は、被告章の本件事故による受傷の事実を争うが、前記三2で認定したとおり、両事故車両の車両重量の差にもかかわらず既に停止していた桑江車が約六〇センチメートル押し出され、上田車の右フロントフエンダーがドアの開閉に支障をきたすほど変形していること、原告上田が停車しようとしている桑江車を発見したときの同車と上田車の距離約四・六メートルは、時速三〇キロメートルで走行中の車両の空走距離とされている五メートルないし六・六七メートルより短いから、桑江車は無制動の上田車に追突された可能性も少なくないと考えられることなどの点を考慮すると、本件事故によつて被告章にはかなりの衝撃が加わつたものと推認され、この事実に前認定の被告章の症状及び治療の経過に、前認定のとおり、昭和六〇年三月ころまでの被告章の治療の態度には特に問題はなく、森井医師も被告章の症状について詐病の疑いは持つていなかつたことを併せ考えると、被告章は、本件事故によつて頸部捻挫及び腰部捻挫の傷害を負つたものと推認され、桑江車が運転席にヘツドレストを装着したメルセデスベンツである点や本件事故当時被告章は急制動をした直後で体に力を入れており、予期しない追突にも比較的捻挫等の傷害を受けにくい状況にあつた点を考慮しても、右推認を覆し受傷の事実を否定することはできないというべきである(なお、前記のとおり、本件事故の原因となつたタクシーの割り込み運転があつたことを裏付ける客観的な証拠が存しないことは前記のとおりであるが、本件事故が被告章の故意によるものであると認める証拠も存しない。)。

そして、被告章が主として訴え、入院治療を開始する主要な理由になつた左下肢の疼痛及びしびれについては、前認定のとおり、入院期間の前半に主に訴えていた部位は第五腰神経根及び第一仙骨神経根の各支配領域に近接し、それぞれ一部重複していること、アキレス腱反射には異常が見られないこと、第五腰神経根の支配する母趾伸筋の筋力低下が見られることなどの点からすると、腰部捻挫によつて第五腰神経根が損傷を受けたことによるものである可能性が高いと考えられる。

しかし、他方、前認定のとおり、被告章には、第四・第五腰椎の狭小化は認められるものの、これはそもそも本件事故によるものかどうかも定かではないうえに、この部位のミエログラフイーの結果や膝蓋腱反射に異常のないことから見て、被告章の神経症状はこれに起因するものではないと考えられ、他にレントゲン写真やミエログラフイー上の異常所見や腱反射の異常などの他覚的な所見はないことに照らすと、被告章の受傷は軟部組織の損傷にとどまるものであると推認されるから、前認定のとおり、被告章の入院の主要な理由となつた左下肢の疼痛及びしびれによる跛行は昭和六〇年四月上旬には一旦消失していること、入院期間後半の被告章の訴えは多彩であるとともに、しびれを訴える部位などにばらつきが見られ、不定愁訴とも言うべき色彩が強くなつていること、被告章が再度跛行し始めた同年四月ころから被告章の入院態度には不自然な点が見られ始め、同年五月上旬以降は看護婦によつて訴えと行動が伴つておらず安静がとれていないと指摘されていること、森井医師も同月中には被告章の社会復帰のためにも通院治療に切替えた方が良いとの説得を始めていること、及び被告章が入院給付金を不法に取得する目的で多数の保険契約を締結していることをも併せ考えると、被告章の大野病院への前記入院のうち、本件事故による受傷の治療のために必要であつたと認められるのは昭和六〇年四月末までの八二日間であると認めるのが相当である。

そうすると、原告東京生命は、契約目録(一)の(5)(イ)の保険契約に基づき、被告章の右八二日間の入院について入院給付金を支払う義務があるところ、同保険契約による入院給付金の日額が一五〇〇円であることは当事者間に争いがないから、原告東京生命は一二万三〇〇〇円の限度で右契約に基づく入院給付金の支払義務を負うことになる。

五  次に、丙事件原告らの本件事故に基づく損害賠償債務の存否について判断する。

ところで、被告章は、大野病院における治療のために要した費用四四二万三五三〇円が本件事故によつて被告章が被った損害であるとしてその賠償請求をし、右請求には何らの留保を付していないので、右額を本件事故による全損害として賠償請求しているものと解されるところ、前述のとおり、被告章が本件事故により頸部捻挫及び腰部捻挫の傷害を受けたこと自体は認められるとしても、治療のために入院の必要性が認められるのは昭和六〇年四月末までであること及び昭和六〇年六月二九日の時点では被告章の頸部の可動域はほぼ完全に近い状態に回復していることは前認定のとおりであり、前認定の被告章の入院態度から見て、被告章の腰部の症状は昭和六〇年五月ころには生活にさほど支障のない程度に回復していたものと考えられること、前認定の被告章の本件事故による傷害のように、受傷が頸部及び腰部の軟部組織の損傷にとどまり、受傷後二週間程度の入院による安静期間の経過により理学療法が可能になるような場合は、二ないし三か月、遅くとも五か月程度経過すれば治癒するのが一般であること、前認定のとおり、少なくとも昭和六〇年五月以降の被告章の訴えの内容と行動には不自然な点も存在するうえに、前認定の事実によれば、被告章が入院による保険金取得の目的で症状を誇張して訴え、右訴えに対する対応のために必ずしも必要でない治療が行われた可能性も少なくないと考えられることなどの点を考慮すると、昭和六〇年六月末までの大野病院における治療費から同年五、六月分の入院料全額と入院料を除くその余の治療費の半額を控除した残余の部分に限つて本件事故との相当因果関係を肯定し、その余の部分については相当因果関係を否定するのが相当である。

そして、前掲甲A第一四号証によれば、被告章の大野病院における昭和六〇年二月から同年六月末までの治療費から同年五、六月分の入院料全額と入院料を除くその余の治療費の半額を控除した残余の額は二六三万三一九〇円であると認められるところ、被告章が本件事故に関し既に七二万三〇八〇円の支払を受けていることは当事者間に争いがないから、右額からこれを控除すべきであり、従つて、丙事件原告らは、各自、右控除を行つた残額である一九一万〇一一〇円の限度で損害賠償義務を負うことになる。

第二反訴について

被告章が原告東京生命に対し、契約目録(一)の(5)(イ)の保険契約に基づき、入院給付金八二日分、一二万三〇〇〇円の支払を、原告上田及び原告阪神商事に対し、本件事故による損害賠償として、各自、一九一万〇一一〇円の支払をそれぞれ請求することができるが、契約目録(一)((5)(イ)を除く。)記載の保険契約に基づく甲事件原告らに対する入院給付金請求及び契約目録(二)((3)、(4)を除く。)記載の保険契約に基づく乙事件原告らに対する入院(所得補償)保険金請求権がいずれも存在しないことは、本訴において述べたとおりである。

また、被告章は、契約目録(二)の(3)、(4)記載の保険契約に基づいて、本件事故による前記入院に対する保険金の支払を請求しているが、前掲甲B第一号証及び同第三号証によれば、右契約による保険者の責任の始期は契約締結日以降であることが認められ、本件事故及びそれに次ぐ被告桑江章の入院は右契約締結日昭和六〇年七月一〇日以前のことであるから、右契約に基づく被告章の請求に理由がないことは明らかである。

第三結論

以上の次第で、原告東京生命を除く甲・乙事件原告らの請求はいずれもすべて理由があるから、これを認容し、原告東京生命の請求は被告章に対する契約目録(一)の(5)(ア)記載の保険契約に基づく入院給付金支払債務が存在しないこと及び同目録(5)(イ)記載の保険契約に基づく入院給付金支払債務が一二万三〇〇〇円を超えて存在しないことの確認を求める限度で、丙事件原告らの請求は被告章に対する本件事故に基づく損害賠償債務が一九一万〇一一〇円を超えて存在しないことの確認を求める限度でそれぞれ理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、被告章及び被告千恵美の反訴請求は、被告章において、原告東京生命に対し、一二万三〇〇〇円の支払を求める限度で、原告上田及び原告阪神商事に対し、一九一万〇一一〇円の支払を求める限度でそれぞれ理由があるから、これを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇 本多俊雄 中村元弥)

別紙一 交通事故目録

(一) 日時 昭和六〇年二月四日午後一一時三〇分ころ

(二) 場所 大阪市南区八幡町三五番地先路上(以下、「本件事故現場」という。)

(三) 加害車両 普通貨物自動車(登録番号、大阪四六の六七九六号、以下、「上田車」という。)

右運転者 丙事件原告(反訴被告)上田勉

(四) 被害車両 普通乗用自動車(登録番号、泉三三ろ四一四一号、以下、「桑江車」という。)

右運転者 被告章

(五) 態様 本件事故現場において、被告章運転の桑江車に原告上田運転の上田車が追突した。

別紙二 保険契約目録(一)

(1) 保険者 原告平和生命

保険の種類 無配当がん・災害入院給付金付特殊養老保険

保険証券番号 一七四一七八八

契約締結日 昭和五九年八月一日

被保険者 被告章

保険金 普通死亡保険金 六〇〇万円

災害死亡保険金 八〇〇万円

普通入院給付金 日額三〇〇〇円

災害入院給付金 日額一万三〇〇〇円

(いずれも二口分)

死亡保険金受取人 被告千恵美

入院給付金受取人 被告章

疾病入院特約 被保険者が疾病の治療を目的として入院した場合に、特約で定める一定の金額に入院日数を乗じて得られる金額の給付金を被保険者に支払う。

災害入院特約 被保険者が不慮の事故による傷害の治療を目的として入院した場合に、特約で定める一定の金額に入院日数を乗じて得られる金額の給付金を被保険者に支払う。

特約の保険期間 二〇年間

保険料 毎月一万三六六〇円

(2) 保険者 原告協栄生命

保険の種類 終身年金付家族収入保険

保険証券番号 〇九―〇五六一八六八六

契約締結日 昭和五九年八月一日

被保険者 被告章

保険金 死亡保険金は契約後何年で死亡したかにより二〇〇万円に一定の係数を乗じて定められた金額

災害死亡時の保険金は右に一〇〇〇万円加えた額

さらに漸次増額される一定年額の家族年金が支払われる。

死亡保険金受取人 被告千恵美

入院給付金受取人 被告章

疾病入院特約 (1)記載の同特約と同内容

災害入院特約 (1)記載の同特約と同内容

特約の保険期間 被保険者が満六五歳に達するまで

入院給付金額 疾病入院給付金 日額五〇〇〇円

災害入院給付金 日額一万円

保険料 毎月二万八七二七円

(3) 保険者 原告住友生命

保険の種類 終身保険

保険証券番号 八四二五九〇八一一五―九

契約締結日 昭和五九年八月一日

被保険者 被告章

保険金 死亡保険金は六〇歳未満で死亡の場合は三〇〇〇万円、六〇歳以上で死亡の場合は三〇〇万円

災害死亡時の保険金は六〇歳未満で死亡の場合は五〇〇〇万円、六〇歳以上で死亡の場合は一三〇〇万円

死亡保険金受取人 被告千恵美

入院給付金受取人 被告章

疾病入院特約 (1)記載の同特約と同内容

災害入院特約 (1)記載の同特約と同内容

特約の保険期間 被保険者が満八〇歳に達するまで

入院給付金額 疾病、災害両特約とも日額一万円

保険料 毎月二万五五六〇円

(4) 保険者 原告第一生命

保険の種類 特別終生安泰保険

保険証券番号 八四〇八―〇三四八二五

契約締結日 昭和五九年八月一日

被保険者 被告章

保険金 死亡保険金は五五歳未満で死亡の場合は三〇〇〇万円、五五歳以上で死亡の場合は二〇〇万円

災害死亡時の保険金は五五歳未満で死亡の場合は六〇〇〇万円、五五歳以上で死亡の場合は二〇〇万円

死亡保険金受取人 被告千恵美

入院給付金受取人 被告章

疾病入院特約 (1)記載の同特約と同内容

災害入院特約 (1)記載の同特約と同内容

特約の保険期間 被保険者が満五五歳に達するまで

入院給付金額 疾病、災害両特約とも日額一万円

保険料 毎月二万三七七〇円

(5)(ア) 保険者 原告東京生命

保険の種類 定期付終身保険

保険証券番号 〇五七―七四二〇四六

契約締結日 昭和五九年七月一九日

被保険者 被告章

保険金 死亡保険金は六〇歳未満で死亡の場合は一五〇〇万円、六〇歳以上で死亡の場合は三〇〇万円

災害死亡時の保険金は六〇歳未満で死亡の場合は三〇〇〇万円、六〇歳以上で死亡の場合は三〇〇万円

死亡保険金受取人 被告千恵美

入院給付金受取人 被告章

疾病入院特約 (1)記載の同特約と同内容

災害入院特約 (1)記載の同特約と同内容

特約の保険期間 被保険者が満六〇歳に達するまで

入院給付金額 疾病、災害両特約とも日額五〇〇〇円

保険料 毎月一万四九八五円

(イ) 保険者 原告東京生命

保険の種類 精算配当付普通養老保険

保険証券番号 三〇―〇二二七八二

契約締結日 昭和四九年九月六日

被保険者 被告章

保険金 普通死亡保険金 一〇〇万円

災害死亡保険金 二〇〇万円

死亡保険金受取人 訴外桑江良信

入院給付金受取人 被告章

災害入院特約 (1)記載の同特約と同内容

入院給付金額 日額一五〇〇円

保険料 毎月一万八〇〇〇円

(6) 保険者 原告千代田生命

保険の種類 定期付養老保険

保険証券番号 三二二組一〇一七四九七

契約締結日 昭和五九年七月二六日

被保険者 被告章

保険金 死亡保険金七六〇万円に加えて、死亡後一年目に八八万円、その後毎年八万円ずつ増額した年金を一〇年間支払う。

災害死亡時は死亡保険金二〇二〇万円に加えて、死亡後一年目に一七六万円、その後毎年一六万円ずつ増額した年金を一〇年間支払う。

死亡保険金受取人 被告千恵美

災害給付金受取人 被告章

総合入院特約 被保険者が不慮の事故及び疾病によつて入院した場合に、特約で定める一定の金額に入院日数を乗じて得られる金額の給付金を被保険者に支払う。

特約の保険期間 三〇年間

入院給付金額 日額五〇〇〇円

保険料 毎月一万四九六〇円

(7) 保険者 原告朝日生命

保険の種類 定期保険特約付有期払込普通終身保険

保険証券番号 二五六第一六〇四〇〇

契約締結日 昭和五九年八月一日

被保険者 被告章

保険金 死亡保険金は五五歳未満で死亡の場合は三〇〇〇万円、五五歳以上で死亡の場合は三〇〇万円

災害死亡時の保険金は五五歳未満で死亡の場合は五〇〇〇万円、五五歳以上で死亡の場合は前記に同じ

死亡保険金受取人 被告千恵美

入院給付金受取人 被告章

疾病入院特約 (1)記載の同特約と同内容

災害入院特約 (1)記載の同特約と同内容

特約の保険期間 被保険者が六五歳に達するまで

入院給付金額 疾病、災害両特約とも日額一万円

保険料 毎月二万四八一〇円

(8) 保険者 原告第百生命

保険の種類 特種定期付養老保険

保険証券番号 一一九―二〇一四〇九六

契約締結日 昭和五九年八月二日

被保険者 被告章

保険金 普通死亡保険金 一〇〇〇万円

災害・がん死亡保険金 三〇〇〇万円

死亡保険金受取人 被告千恵美

入院給付金受取人 被告章

医療特約 被保険者が入院した場合に、特約で定める一定の金額に入院日数を乗じて得られる金額の給付金を被保険者に支払う。

特約の保険期間 三〇年間

入院給付金額 日額一万円

保険料 毎月二万〇五〇〇円

(9) 保険者 原告明治生命

保険の種類 定期保険特約付養老保険(ダイヤモンド保険)

保険証券番号 二七―五二一九三七

契約締結日 昭和五九年八月一日

被保険者 被告章

保険金 普通死亡保険金 三〇〇〇万円

災害死亡保険金 六〇〇〇万円

死亡保険金受取人 被告千恵美

入院給付金受取人 被告章

入院保障特約 (1)記載の疾病・災害入院特約と同内容

特約の保険期間 二五年間

入院給付金額 疾病・災害いずれも日額一万円

保険料 毎月二万四八〇〇円

(10) 保険者 原告安田生命

保険の種類 定期保険特約付新終身保険

保険証券番号 (一八)第一一三五四二

契約締結日 昭和五九年八月一日

被保険者 被告章

保険金 死亡保険金は契約後一五年以内に死亡の場合は五〇〇〇万円、それ以後は二五〇万円

災害死亡時の保険金は契約後一五年以内に死亡の場合は六〇〇〇万円、それ以後は一二五〇万円

死亡保険金受取人 被告千恵美

入院給付金受取人 被告章

疾病入院特約 (1)記載の同特約と同内容

災害入院特約 (1)記載の同特約と同内容

特約の保険期間 三〇年間

入院給付金額 疾病・災害両特約とも日額一万円

保険料 毎月三万一三四〇円

(11) 保険者 原告大同生命

保険の種類 定期保険

保険証券番号 五一七―四三八三九七

契約締結日 昭和五九年九月一日

被保険者 被告章

保険金 死亡保険金 一億円

死亡保険金受取人 被告千恵美

入院給付金受取人 被告千恵美

入院特約 (6)記載の総合入院特約と同内容

特約の保険期間 一〇年間

入院給付金額 日額一万円

保険料 毎月三万九七八〇円

別紙三 保険契約目録(二)

(1) 保険者 原告住友海上

保険の種類 普通傷害保険

被保険者 被告章

保険証券番号 六七八〇―一九六〇七四―B

契約締結日 昭和五九年七月一〇日

保険期間 右契約締結日から一年間

保険事故と保険金 被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によつて傷害を受けたとき、入院日数一日につき一万二〇〇〇円(但し、事故発生の日から一八〇日を限度とする。)

保険金受取人 被告章

保険料 毎月五九一〇円

(2) 保険者 原告住友海上

保険の種類 所得補償保険

被保険者 被告章

保険証券番号 六七八〇―一九六〇七四―C

契約締結日 昭和五九年七月一〇日

保険期間 右契約締結日から一年間

保険事故と保険金 被保険者が疾病または急激かつ偶然な外来の事故による傷害を被り、そのために就業不能になつたとき、右就業不能期間一か月につき三〇万円(但し、右就業不能期間が一か月に満たない場合または一か月未満の端日数が生じた場合は、一か月を三〇日として計算した割合により支払う。)

保険金受取人 被告章

保険料 毎月二九七〇円

(3) 保険者・保険の種類・被保険者・保険期間・保険金受取人は(1)に同じ

保険証券番号 六七八〇―三一四八一四―B

契約締結日 昭和六〇年七月一〇日

保険事故と保険金 被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によつて傷害を受けたとき、入院日数一日につき五二五〇円(但し、事故発生の日から一八〇日を限度とする。)

保険料 三万八七六〇円(一括払)

(4) 保険者 原告住友海上

保険の種類 家族傷害保険

被保険者 被告章及びその同居の家族

保険証券番号 六七八〇―三一四八一〇―二

六七八〇―三一四八一一―三

六七八〇―三一四八一二―四

契約締結日 昭和六〇年七月一〇日

保険期間 右契約締結日から三年間

保険事故と保険金 被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によつて傷害を受けたとき、入院日数一日につき契約者本人である被告章は三〇〇〇円、家族は各二〇〇〇円(但し、事故発生の日から一八〇日を限度とする。)

保険金受取人 各被保険者

保険料 三口合計二六万七〇〇〇円(一括払)

(5) 保険者 原告AIU

保険の種類 普通傷害保険

被保険者 被告章

保険証券番号 四BE八三九七

契約締結日 昭和五九年七月二〇日

保険期間 右契約締結日から一年間

保険事故と保険金 被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によつて傷害を受けたとき、入院日数一日につき三万円(但し、事故発生の日らか一八〇日を限度とする。)

保険金受取人 被告章

保険料 二万一三七四円

(6) 保険者 原告AIA

保険の種類 普通傷害保険

被保険者 被告章、被告千恵美、訴外桑江亜季美

保険証券番号 K〇一五六二八

契約締結日 昭和五九年八月二日

保険期間 右契約締結日から一年間

保険事故と保険金 被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によつて傷害を受けたとき、入院日数一日につき被告章は一万円、他の二人は各二〇〇〇円(但し、事故発生の日から一八〇日を限度とする。)

保険金受取人 各被保険者

保険料 毎月九五四二円

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